現代まで続くという有楽会の目的は、中国思想の始祖(しそ)である孔丘の血統による、極東での周王朝の再興と護持(ごじ)……すなわち天皇制下の日本。亀山博士の戦時中の呟きが意味するのはそういうことだが、この真偽は薫が知るところではなく、シナリオを書く上で伝奇的想像力をかきたてられたというだけのことかもしれない。
 ゲーム制作の中断の原因となったのは、テーマに欲望をおりこむかどうか、ということでの対立だった。トレードをやっている監督の鉄は、当然それを表現しようとしたが、一方引きこもりのような生活をしていた薫は別のテーマを求めようとした。
 制作は薫が最初のエクスタシーになった後、大学を休学し実家にもどっていたときに始められ、上記の理由で中断した。
 それから薫は調子が悪化し精神科に入院。まるであたまのなかにマグマでも湧きおこっているかのような激甚(げきじん)なきつさを抱え、ある日病室に来た担当の精神科医に言った。
「あんまりこんなことやってると、そのうち東京あたりで地震が起きますよ……」
 高学歴の薫の口から、このような精神病者にありがちな神秘主義の言葉が出たことに、医師は失笑したかもしれない。
 東日本大震災はその数日後だった。

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