薫は童貞だという。ただ多くの「あたまをやられた」人たちと同じように、彼の記憶も錯綜(さくそう)している。
 薫は最初の大学退学から、二十回以上精神科に入院した。退学後、佐賀の実家にもどり、ひどく考えこむようになり、ある日風呂に入っていると「世界が消えた」と言って、ぼろぼろ涙をこぼし泣いた。
 家族に精神科を受診するようすすめられたその頃から、薫には迷妄(めいもう)の記憶が立ちあらわれてくる。

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