河瀬のノートにはさまれていた泉薫の(正確には泉薫のモデルとなった男の)履歴書には、彼の写真が貼られている。それはおそらく泉薫本人から河瀬がもらい受けたものだろう。度の強い眼鏡をかけた面長のその顔は、どこか神経質そうにも見えた。
 薫は佐賀の高校を卒業したあと、東京大学に進学している。興味深いのは、一度大学を退学し、それから数年後に再入学していることだ。薫が最初のエクスタシーになったのは、その二度目の在学時だったとノートには記されている。そしてこのときも大学を卒業することなく、再び退学したようだ。
 エクスタシーとは、いまでは麻薬やセックス、音楽での高揚などにつかわれる言葉だが、もとは神がかりのような意味だ。エクスタシーは世界中の哲学で重視される。哲学というとなにか難しそうなイメージがあるが、エクスタシーのような宗教的呪術的行為と哲学は本来不可分なのだ。